弁護士 普門大輔のふらっふBLOG

大阪市の生活保護の動向と分析

2014年4月06日 | カテゴリー:法律

大阪市は、「生活保護制度をとりまく状況について、市全体の共通の課題認識に立ち、より効果的・効率的な手法や体制及び国への制度改革要望について検討を進め、本市生活保護行政を適正に執行していくため、区長を中心に、福祉局を担当する副市長以下関係する部局で構成する大阪市生活保護適正化連絡会議を設置」している。同連絡会議が公表する大阪市の生活保護の動向に関する資料に基づいて、この間の大阪市の生活保護の動向と分析を試みたい。

 (公表資料)

平成25年10月16日に行われた第6回の連絡会議添付資料http://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/cmsfiles/contents/0000239/239615/20131017001000000000.pdf(以下、頁数は同データ右下の頁番号を示す。)

 ※大阪市は、「高齢者世帯」と「高齢者世帯以外=稼働年齢層」という分類を行っているが、生活保護の利用類型は、本来、「高齢者世帯」、「母子世帯」、「障がい者世帯」、「傷病者世帯」、「その他世帯」に分類して検討を行う必要があることを指摘しておく。そのため、大阪市が稼働年齢層と位置付けた「高齢者以外の世帯」には、稼働能力の活用に支障があると考えられる母子・障がい者・傷病者世帯を含んでおり、さらに「その他世帯」にも、高齢者・母子・障がい者・傷病者がいることを踏まえる必要があるので「高齢者世帯以外=稼働年齢層」という前提は精緻を欠くものである。

 1、     動向と分析

2頁【全国政令市にみる被保護世帯数の動向】

平成24年7月と平成25年7月の全国政令指定都市の保護動向を比較している。

全国的な傾向は、保護人員は1.6%増 保護世帯は2.5%増という傾向を示している中、唯一被保護世帯数が減少しているのは大阪市だけである。

高齢者世帯以外(以下同じ)についてみると、大阪市を含む政令市10市で減少している。

減少率だけでなく、減少数にも着目する必要があり、他の政令市は高齢者世帯以外の減少数が5~約500世帯の幅であるのに対し、大阪市は2936世帯ときわめて突出している。

緩やかな景気回復、有効求人倍率をはじめとする労働市場の回復は、地域差はあれど全国的に共通の方向を示すはずであるが、大阪市が突出した傾向を示すことになった理由はどこにあるのだろうか。

 

3頁【大阪市保護世帯・全体】

平成24年9月と平成25年9月の大阪市における生活保護世帯数が432世帯減少している。直近の報告ではさらに対前年同月比605世帯減少となっており、8か月連続で対前年同月比減少している。

ただし、これは全国的傾向である高齢者世帯の増加を含んだものであり、世帯減少の実態を把握するためにはもう少し詳しくみなければならない。

 

4頁【大阪市保護世帯・類型別】

大阪市の保護世帯数減少は、高齢者世帯の増加数2531と高齢者世帯以外の減少数3003の差として生まれるものであり、高齢者世帯以外が3000以上減少した結果である。そしてこの傾向は現在も続いている。

高齢者世帯が増加しているのに対し、高齢者世帯以外は、平成22年度は増加し、平成23年度に横ばい、平成24年度から減少に転じ、平成25年から現在まで減少している。このことから、大阪市の生活保護の動向として、高齢者世帯の保護利用はこれまで通り増加の一途を辿っているが、高齢者世帯以外については、平成23年度に増加にブレーキがかかり、平成24年以降は高齢者世帯の増加を吸収し、その後、これを上回る規模で保護世帯が減少している、というものである。

同連絡会議では、これを就労自立支援と不正受給対策等適正化の取り組みの効果が表れたものと評価しているようである。

確かに、大阪労働局が公表する平成24年大阪労働局統計年報

http://osaka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/osaka-roudoukyoku/H26/toukei/251018-1.pdf)などによれば、平成24年の大阪市内の有効求人倍率等の改善は認められる(大阪府内は依然として低迷している。)が、大阪市内各区福祉事務所の実施体制(充足率61%程度)の実態や任期付職員や非常勤嘱託職員の代替補充など熟練職員が減少している中で就労支援員による支援がこのような結果に結びつくほど奏功しているとの情報は確認できず、また、不正受給対策等適正化の取り組みが保護世帯の大幅な減少に結びつく理由も判然としない(大阪市が、不正受給対策として公表している数値によれば、後記のとおり、却下・停止・廃止件数の合計94件程度である。)。

 

5頁【大阪市各区別:被保護世帯・高齢者世帯・高齢者世帯以外の動向】

平成24年9月と平成25年9月の大阪市各区の保護世帯の動向について、高齢者世帯は全区で増加し、一方、高齢者世帯以外はほぼ全区で減少している。

大阪市が低迷する捕捉率と顕著な高齢者世帯の増加傾向にもかかわらず保護世帯総数を減少させたことは、高齢者世帯以外の保護世帯を稼働年齢層と“想定”して、この層に対するきわめて厳しい姿勢と強い方針でその抑制を計った結果といえる。

 

6頁【大阪市生活保護費全体推移】

平成20年から平成24年の大阪市の生活保護費(決算)の推移に関し、平成24年において22年ぶりのマイナスに転じている(平成23年度決算額2978億円→平成24年度決算額2954億円の24億円減となっている。)。

内訳は、医療扶助費と生活扶助費の減少である。さらに直近の資料によれば、平成26年度予算要求額は2944億円とされ、さらにこの傾向が続いている。

高齢者世帯の増加にも関わらず、医療扶助費が減少に転じていることについて、その理由は判然としない。

 

7頁【大阪市生活保護費・各区・扶助費別】

平成24年度決算見込額2954億円の内訳を、各区別・扶助費別に示す。

各扶助費は、対前年度比よりも増加している区もあり、一律に減少して24億円の減が導かれているわけではない。

特筆すべきは、24億円もの減少計上に大きく寄与している区があることである。都島区の医療扶助1.9億円を含む2.6億円の減少、浪速区の生活扶助費2.1億円を含む3.5億円の減少、西成区の生活扶助費3.1億円、医療扶助費15.6億円を含む18億円強の減少などがそれである。

現場や生活保護利用者の生活という観点に立てば、都島区の医療扶助に何が起こっているのか?浪速区の生活扶助に何が起こっているのか?西成区の生活扶助・医療扶助に何が起こっているのか?ということであり、生活扶助費が減少する条件として、保護(停)廃止措置の増加、扶養義務調査とその履行や就労指導の強化などの徹底が推察できる。

さらには、ここには反映されていない平成25年8月、平成26年4月に実施された生活保護費の切り下げ、西成区あいりん地区において住居を有しない人に対する敷金支給等を行っていた大阪市立更生相談所が平成26年4月に廃止されたことなどを受け、この傾向はさらに強まることが予想される。

 

17頁(不正受給調査専任チームの取り組み)

大阪市は、平成24年4月、警察官OBを含む不正受給調査専任チームを全区に設置し、不正受給防止に向けた取組みを強化している。そこで不正受給を疑う重点的調査案件が挙げられ、平成24年継続案件482件、平成25年度4か月間の新規案件456件の合計938件について、不正受給調査専任チームが対応を行っている。

重点調査は、西成区・浪速区が突出している。その一方で、申請却下・停止・廃止件数合計が94件(重点調査件数比10%)、78条返還58件(重点調査件数比6%)という実績である。また、この取り組みは、新規開始時の調査や保護決定後に行う生活実態の把握など、不正受給の未然防止に向けて強化されるようである。

 

以上に加え、新規開始件数の抑制という形で生活保護世帯の減少に寄与している問題もある。

国等の監査において、たびたび指摘されているところであるが、大阪市各区が生活に困窮して福祉事務所を訪ねる者に対して交付している「連絡票」、「相談受付票」という独自書式による積極的申請権侵害や申請したくてもさせてもらえないという水際作戦が相変わらず維持されていることを窺わせる事例が確認されている。

たとえば、平成25年12月の数値では、鶴見区では60件の面接のうち42件が相談扱いとされて申請数は18件、都島区では86件の面接のうち58件が相談扱いとされて申請数は28件、西成区では627件の面接のうち416件が相談扱いとされて申請数は211件となっており、面接件数に占める申請数は3割程度ときわめて低迷している。一方、面接に訪れた6割強の人が申請することができている区もあり、申請事務の低減のための前処理というには看過しえないほどの歴然たる差が出ている。

 

2,評価

(1)生活保護利用者に対する締め付けの強化

世帯類型を問わず、扶養義務の履行等による私的扶助の拡大、また、稼働年齢層に対する就労指導の強化等によって、生活扶助費を減少、または、保護世帯を減少させている問題、また保護費の大半を占めるとされている医療費を抑制するあらゆる対応が行われている疑いがある。

この点について、大阪市は「仕送りのめやす」という独自資料を作成し、また、行き過ぎた就労指導指示、介護扶助費等について保護利用者に自弁を求める問題があり、具体的事例にあたり、調査を行う必要がある。

(2)要保護者の締め出しの強化

監査意見等においても度々指摘されているとおり、各区において独自に連絡票や相談受付票と称する書式を作成し、申請と扱わない例や、とりわけ、稼働年齢層にあるとされている要保護者に対する生活保護申請について、大阪市は「保護申請時における就労にかかる助言指導のガイドライン」(平成23年1月策定)を策定し、「助言」に名を借りた違法・無効な「指導指示」を行い、法定期間を遵守せず、また保護却下している例がある。

この点について、具体的事例にあたり、調査を行う必要がある。とりわけ、改正生活保護法を受けて各区役所申請窓口に申請書の備え置きを徹底する必要がある。

(3)実施体制及び不正受給キャンペーンの実態

保護費抑制の要因として大阪市は不正受給対策等適正化の取り組みを挙げている。具体的には、全区福祉事務所に警察官OBを配置し、不正受給とは無関係な生活保護利用者に対してもプレッシャーを与えるチラシを配布するなど、実施体制(充足率等)の改善ではなく、生活保護法28条調査を犯罪捜査化している問題がある。

生活保護の権利性を踏まえず、生活保護費抑制策を実施するために、市民に対して生活保護制度に対する誤った印象を与えている。この点について、福祉事務所の実施体制と併せて、行き過ぎた不正受給対策についても、具体的事例にあたり、実態を調査する必要がある。

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